ルンブルクス ルベルス』とは


 血栓を溶かす効果で世界中から注目を集めている『ルンブルクス ルベルス』、そもそも”ルンブルクス ルベルス”とは何か?その正体は私達の身近にいる『ミミズ(ルンブルクス ルベルス種)』なのです。でも、そのミミズに興味をもたれている方は、皆無に近いのではないでしょうか。特に女性の方は「動きがグロテスク」「気持ち悪い」といった見方をされ、あまり評判がよくありません。ミミズはこの地球上に、約4億5千万年前に出現し、今日に至るまでほぼ姿を変えずに生息している生物で、現在で約三千種いるといわれています。しかし誰もまだ正確にその数がわからず、身近にいながら謎の多い生物です。この以外と知られていないミミズの生態と、微生物の感染や癌から逃れる生態防御因子についてここで述べてみます。
 ミミズの研究の歴史は古く、あのダーウィンも遺跡とミミズについて興味深い論文を書いています。私達はヒトの消化器官や口腔の免疫研究から出発して、感染や癌に対する生態の防御のメカニズムを調べていくうちに、無脊椎動物の生態防御機構は基本的にヒトと同じであることがわかりました。生物は共通の生態防御メカニズムを持っており、この機能は外敵に対する防御というより、固体の維持に必要な基本的な機能であると思われます。ミミズの細胞が持つ、ヒト癌細胞を殺す事ができる抗腫瘍蛋白。この蛋白の研究によって、癌治療が大きく進歩するという可能性が広がってきました。


癌細胞を認識して殺傷能力を示すパーホリン様蛋白を発見

 東京都千代田区教育委員会の後援を得て、日本大学歯学部の第11回公開講座が開かれました。そこで講演された小宮山先生の演題は『ミミズに癌はできない〜生態防御の戦略はヒトもミミズも同じ?〜』というものでした。そこで、なぜミミズに癌がないのか、歯学部にあってなぜ研究対象がミミズなのか、など、多くの疑問や関心が寄せられました。今回の講演ではこうした研究の動機や成果についても述べられています。
 まず研究の動機ですが、先生は4年前に南カリフォルニア大学のエドワード・クーパー教授の講演でヒトのリンパ球によく似たミミズの細胞が癌細胞を殺そうとしているスライドを見て、生態防御機構はヒトもミミズも同じなのだろうか、という疑問をもたれました。その事を教授にたずねましたが『君が研究しなさい』といわれて、ミミズの研究をする事になったのです。試行錯誤を重ねた結果、特異的に癌細胞を認識して殺傷能力を示すパーホリン様蛋白を発見。今後の研究次第では癌治療に結びつく成果が期待できる物質の発見に、学会からも大きな注目を浴びています。


ミミズの乾燥粉末は脳梗塞を招く血栓を溶かし、正常化する?


 日本人の死因は、@癌A心臓疾患B脳卒中、 の順になっていますが心臓疾患の90%は心筋梗塞、脳卒中の70%は脳血栓で亡くなっています。心筋梗塞や脳血栓は、血栓が引金となる病気で、血栓症全体の死亡率は癌をうわまわっているといえます。血栓とは、血管の中にできる血の塊(かたまり)のことです。もし、血栓が血管を塞いでしまうと、そこから先に血液が行かなくなり細胞の酸素や栄養分の供給がストップしてしまいます。その結果、細胞組織は壊死(組織の部分的な死)してしまいます。これが心臓の血管でおこれば心筋梗塞、脳の血管におこれば脳梗塞になります。
 通常、血管が損傷して出血が起こると、まずその部分に血液中の成分の一つである血小板が集まって互いにくっつきあって固まります。次に血漿(血液中の血球成分を沈殿させた後に残る上澄み液)に含まれるフィブリノーゲンというタンパク質が活性化されてフィブリンという繊維素に変わります。そのフィブリンが血管の破れた箇所をしっかりと止血して、それを土台にし、破れた血管壁の細胞が増殖し、血管が修復されます。このフィブリンがいわゆる血栓の正体です。
 このままでは血栓が血液の流れを阻害してしまいます。しかし、私達の体には用済みとなった血栓を溶かす仕組みが備わっています。それが線溶系という仕組みです。通常、けつえきは固まろうとする凝固系の働きと、血栓を溶かす線溶系の働きとがバランスを取り合いますが、このバランスが乱れて線溶系の働きが低下すると血栓が生じやすくなり、一方、線溶系が活発になると出血を起こしやすくなります。
 ここで、線溶系の働き、すなわち血栓を溶かす仕組みについて考えましょう。血栓ができると血液中にあるプラスミノーゲンという物質が活性化されてプラスミンという酵素に変換されます。このプラスミンが血栓の正体であるフィブリンを溶解します。酵素とは、体内における化学反応を促進する物質です。
 血栓症の治療薬には、プラスミノーゲンを活性化する働きのあるウロキナーゼという酵素が用いられます。ただしこのウロキナーゼは人間の尿からごくわずかしか抽出されない物質です。じゅうぶんな血栓溶解をおこなうには大量の尿を必要とします。現在では遺伝子操作による培養法で造っています。しかし、いずれにせよ薬の値段が高くなるという問題はあります。
 そして現在、ウロキナーゼに替わる血栓溶解剤を研究している学者が、ついに線溶活性物質をミミズ(ルンブルクス ルベルス種)から発見したのです。


血栓を溶かすルンブロキナーゼ


 ミミズが土壌を改良することは、皆様よくご存知のことと思います。研究室では犬やネズミといった種々の実験動物の排泄物を処理するためにミミズを飼っていましたが、ミミズは一年間に数百倍以上に繁殖します。これをなんとか有効利用できないものかと思い、学者の研究テーマでもある血栓溶解剤への利用を考え、研究を進めることになりました。
 ミミズは漢方では地龍(じりゅう)と呼ばれ、解熱剤などに用いられます。日本のカゼ薬にもミミズを配合したものがあります。解熱剤にはミミズの皮の部分が用いられ、その有効成分については、既に大正時代に特定されています。
 そして学者が用いたミミズは欧米などに生息する『ルンブルクス ルベルス』という種類で、このミミズは日本に生息しているミミズとは異なり、冬も冬眠せず年間を通じて活動します。このミミズはフィブリンを溶かす酵素を持っていて、『ルンブロキナーゼ』と命名されて、1983年にストックホルムで開催された国際血栓止血学会で研究成果を発表しました。世界で初めて内服剤として経口投与が可能、という事で注目を集め韓国では1988年から医薬品としての認可を受けています。